Pieces of a dream
彼の存在の手の中の光輝の聖剣が煌く。
目前の兵士が薙ぎ払われる都度、それに僅かに遅れ、燃え盛る焔の如き真紅の髪が凪がれた。
射るような眼差しは、その身の内を流れる血よりも尚、紅い。
若き凛然たる存在は光輝の末裔と呼ばれるバルディアの王であり、名をレディンと言う。
「鬱陶しいっ!」
怒鳴りつけながら周囲を埋め尽くしていた兵士を切り捨てるレディンの口から、凡そ王に相応しくは無い口汚い声音が吐き捨てられた。
幾人もいた彼の指揮下の者は、既に一兵も無く。
レディンは完全な孤立状態に在った。
それでも、その手の聖剣は変わらず輝き、レディンの面に恐れはまるで伺えない。
エルサリアから争いを全て無くすべく、レディンが大陸統一を宣言して新たな戦いに身を躍らせ既に一年が過ぎようとしている。
先の聖剣争奪戦争よりダルシス帝国を瓦解させ内包し、国力も軍事力も大陸随一と成り得たバルディアである。
しかも、光輝の聖剣ラングリッサーを携えた光輝の王に、適うべき相手はいないだろう。
それでも、野心に取り付かれた諸国の王が、未だ歳若いこの王に従順する筈も無く。
無意味な戦いは未だ終わりを見せないでいる。
そんな戦いの様を少し離れた場所から傍観している者が、居た。
「…さて、どうするつもりだ…?」
ポツリ。
何気ない呟きが零れ落ちる。
それを聞き止めたと言うのか。
幾重にも人垣に包囲されたレディンの顔が不意に振り仰がれる。
「そんな所でブツブツ言っている暇があったら、手助けしたらどうだ。ランス=カルザス!」
凛としたレディンの声が耳を震わし、一瞬ピクリと呟きを漏らした存在の身が揺れる。
「…何だ、気付いていたのか…」
当然ながら気配を殺した上に、ゆうに十数メートルは上空に在った自分に気付いたレディンを見つめ、ランスは僅かに眉を顰めて吐息を漏らす。
だが、口許に苦笑いを浮かべたかと思った次の瞬間。
愛用の槍を構えランスは戦いの場に身を躍らせる。
純白の竜に跨った騎士の突然の参入に、慌てふためく間も無い兵士の生命は、彼の槍の一凪ぎで呆気なく生命を散らす。
「相変わらず、人使いの荒い…」
「何か言ったか」
レディンの声に、また苦笑が漏れる。
「別に」
「文句は後で聞いてやる。今はこの情況を打破しろ!」
はっきりとした命令がレディンの口から放たれる。
瞬間。
「心得た」
ランスの意識は、それに従っていた。
パチパチと爆ぜる焚き火の音が、静寂な空間に響く。
揺れる焔に彩られた光輝の王の表情が、珍しく嬉し気だと気付くものは少ないだろう。
「バルディアから支援が来るのは明朝だ。それまで一休みと洒落込むか」
確かな疲労を臭わせる呟きが、レディンの唇を突いて出た。
「そうだな…」
同意して僅かに寛ぐ素振りをランスは示す。
結局、敵将の首を屠るまでたった2人きりで戦い続け、やっと一息付けたのはつい今しがたである。
それまで互いに必要以上の会話は無かった。
「…やはり、生きていたな」
「まあな」
唐突な断言に、ランスは憮然と応えた。
ヴェルゼリアの戦いで行方知れずとなっていた、かつてダルシスの黒騎士と称された稀代の騎士は新たな薪を火の中に放り投げた。
これまで、どうしていたんだ?
そんな言葉がレディンの脳裏を過るが、聞くだけ無駄と知り尽くしているから敢えて問わない。
「…お前にしては派手にやらかしているようだな」
逆にランスが揶揄するように囁けば、ムッとしたようにレディンの整った眉が歪められた。
「誰かがやらないなら、俺がやるしかないと思っただけだ」
大陸の統一を。
レディンのそれは如何にもな応えだ。
「確かにお前にしか出来まい。光輝の末裔たるお前にしか、な」
「…嫌味か?」
今度はレディンが憮然と表情を歪める。
「嫌味ではない。だが、馬鹿げている」
かつて、聖剣を奪取して大陸統一を成し遂げようとしたランスの主君・ダルシス皇帝ディゴスは、結果的に哀れな最後を迎えた。
その標的となり、一度は滅ぼされた国こそ、目前に有るレディンの国バルディアそのものなのだ。
その現実を知っているからこそ、ランスは敢えて言った訳だが。
「…馬鹿で悪かったな…」
表情を歪めたレディンの面に、子供じみたものがチラリと浮かぶ。
未だ確か十代だったな、等とランスの思考の片隅をそんな事が微かに過る。
「お前は…あの時カオスに対峙していないからな。このままであってはならないのだと思い知らされた以上、他の誰でもない、俺がやるしか無いと決意した」
そう呟いたレディンの意識が混沌の神と雌雄を決した瞬間へ一瞬飛ぶ。
確かにあの時、ランスはレディンたちと行動を共にはしていない。
レディンに全てを託し、背後を護る事に全てをかけて戦ったのが随分と昔の事のようだが、現実にはあれから3年と過ぎてはいない。
「・・・」
過去に思いを馳せるレディンの面を見つめるランスの口許が僅かながらに歪む。
あれは、あの時は、それが最善の手段だったと、今も疑ってはいないつもりだ。
「すまぬ」
不意にレディンの低い謝罪の声が零れ落ちる。
「…何だ、突然」
「俺は今迄一度も戦いに於いて後悔した事は無い。ただし、あの時を除いては…」
「俺が自ら買って出た事だ。気に病む必要は無い」
ランスの真摯の眼差しがレディンを射る。
「それより、こんな所で死なれるほうが余程腹立たしい」
その眼差しを真っ向から受け止めたレディンは薄く微笑った。
紅の瞳は、2人の間に在る焔よりも紅い。
まるで血のようだと思った。
刹那。
ゾクリ、と血が滾る。
この男を倒したい。
凛然と立ち、誰もが無意識に跪く程の存在となった時、実力を持って堂々と対峙し倒したい。
だから戻ってきたのかもしれない。
レディンの前に。
そんなランスの真意を悟ったのか。
「俺を倒すのは自分だから、か?」
嫌そうに言葉を搾り出すレディンを見つめ、ニヤリと笑った。
「解っているじゃないか」
くつくつと、ランスは笑う。
「だから、力を貸してやる」
全てが終わったその時に、雌雄を決したいがため。
「ランス…!」
パッとレディンの面が輝く。
今はその言葉が何より欲しかった。
「在り難く思え」
片目を瞑り、ランスは愉悦を面に乗せた。
果てしない道。
それはまさに覇道。
それを成し遂げ、後に「光輝の英雄王」と謳われるレディンの「剣」とも「盾」とも称される英傑、カルザスは常に英雄王の元に在ったと言う。
駄文
何が言いたいんでしょうかね〜、ランスは(爆)
要約すると「他人に殺させるのは勿体無いから、護ってやるぞ。在り難く思え、このヤロウ」ですか?(笑)
もう一寸捻りたい所ですが、捻ると長くなりそうなので、その辺は何れまたって事で(こら)
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