Lonesomeness |
ウータイの一個師団の壊滅。 その、本来ならば喜ぶべき情報が神羅上層部に届いた時、誰もが一瞬我が耳を疑った。 それを叩き潰したのが、先日、プレジデント神羅の命により、科学部門より治安維持部へその所属を移動したばかりの少年とあらば、尚のことだ。 一個師団と言えば、基本的には三個連隊――三個小隊で一個中隊、四個中隊で一個大隊、三個大隊で一個連隊――相当の軍勢を意味する。 それを、如何に特異な環境で育てられたとは言え、たった一人の子供が壊滅させて仕舞うなど、常識で考えれば在り得ない話だ。 だが、改めてかき集めた情報に、偽りは無かった。 剣と魔法の攻撃で、千人以上の武装部隊が叩き潰されたのである。 「末恐ろしい子供だな…」 未だ11歳になったばかりの、天より来たりしジェノバを生まれながらに植え付けられた、過ぎる程に整った幼い子供の顔を思い描きながら、プリントアウトされたデータから顔を上げたプレジデントは、掠れた声音をやっとの事で吐き出すのだった。 「…もう一度聞く。”コレ”は何処で手に入れたんだ?」 科学部門特別研究施設。 内部の者は特研−ラボ−と称するその一室で、科学部門統括・宝条は、件の少年を前にして本日三度目の問いを向ける。 「……拾った……」 ”コレ”と問われる、解析機の上に安置された美しい刀剣から視線を外さず、輝くような銀の髪、美麗な白磁の面に翡翠の瞳をした少年が呟く。 「…真面目に答えなさい、セフィロス」 「オレはちゃんと答えている」 宝条の目を睨むように見ながら、少年・セフィロスは言い捨てる。 勿論、本当は貰った物なのだが、”ソレ”をセフィロスに与えてくれた人に、拾ったと言っておけと言われていたので、それを忠実に守っているだけだったが。 尋常な手段では入手困難なレアな武器なので、拾ったとしておけば問題は無いだろう。 何せ、元はウータイの神剣なのだから、と優しく囁いてくれた人の笑顔を脳裏に描きながら、セフィロスは頑なに『拾った』を繰り返す。 「ふむ…」 つい先程まで、調査のためにセフィロスから取り上げていた刀剣は、尋常ではない攻撃力と、装備者の魔力を大幅に上昇させる特異な能力を秘めた武器だ。 しかも、”拾った”時からその柄には幾多のマスター化したマテリアが填め込まれており、確かに”コレ”を装備した状態なら、セフィロスがウータイの一個師団を壊滅させて仕舞うに至るのも道理と思わせる。 初陣でとんでもないことをしでかしてくれた少年を、本当なら褒めてやりたいところだが、それもこれもセフィロスを誕生させる時に植え付けた”ジェノバ細胞”所以と思えば、それを行使した宝条の意識を喜悦させるには十二分過ぎると言えるだろう。 「成る程な」 愉悦に低く唇を笑いに歪ませる狂気の科学者を睨む眼差しに更に険を込め、セフィロスは吐き捨てるように言った。 「もう調査は終わったのだろう? 返せ…っ」 取り上げるときに、酷く嫌がった少年の、必死の声に宝条は薄く笑う。 「ほぉ…お前が物に固執するとはな」 「……っ」 実験動物を見るような眼差しで己を眺める宝条から、セフィロスは思わず視線を外す。 「まぁ、いいだろう」 一見して填め込まれているマテリアは、マスター化しているとは言え、何処にでも在る物でしか無い事だし、これ以上セフィロスに臍を曲げられるのも面倒とばかり、宝条は解析機から刀剣を取り出すと少年に手渡した。 受け取ると同時に、ギュッとそれを胸に抱き締め、セフィロスは安堵の息を零した。 「今日はもう…オレへの『検査』は無いのだったな?」 憮然とした表情のまま、セフィロスは念を押すように声を絞り出す。 「ああ」 「なら、仕官宿舎に戻る」 淡々と応え、セフィロスは踵を返すとラボを後にした。 「…あれが、これ程に『獲物(ぶき)』に執着するとはな…。何れ、あの程度のモノでは物足りなくなるだろう…その時が今から楽しみだ…」 少年の後ろ姿を見送り、厭らしい笑いを面に張り付け、宝条は独りごちる。 「そろそろ例の実験を起動させるか。今なら反対意見も起きはしまい…」 セフィロスの戦闘力の顕現により、以前より画策していたソルジャー計画を実行に移せる絶好の機会を得た現状に、彼は大変満足していた。 魔晄都市ミッドガル・一番街。 軍事施設が占めたこの空間には、治安維持部―今では誰もが神羅軍と言って憚らない―の施設が所狭しと連なっている。 その中央に、軍に所属する者たちの住居が備わっていた。 上級仕官が住まう高級マンションに匹敵する宿舎に与えられた一室に飛び込み、セフィロスはホッと息を吐き出した。 「クラウド…」 豪奢な作りにしては殺風景なリビングの中で、唯一それらしい家具であろう大きなカウチに腰を降ろすと、セフィロスは手の中の草薙を抱き締め、彼の人の名をそっと呟く。 それだけで草薙が不思議な事にふんわりと温もりを与えてくれるような感じがして安心したセフィロスは、膝を抱え目を伏せた。 その脳裏をこの数日の目まぐるしかった事柄が、ふと過る。 あの日。 クラウドと別れて軍本部に戻った直後にウータイの一個師団壊滅が伝わり、それを成したのが自分であると伝えた瞬間から、連綿と続く幾多の疑問に応えそれが確証に変る都度、人々が己を見る目が強大な畏怖となり、雑多な出来事に翻弄されざるを得なかったセフィロスは酷く疲れた。 素晴らしい。 やはり、お前は特別な存在だった。 最も毛嫌いする宝条(おとこ)の言葉が、それに拍車を掛けた。 違う。 本当は、あの戦果は「ひとり」で成した事などでは無い。 クラウドがサポートと称した圧倒的な力でセフィロスをフォローし、時には護り、緻密な指示を与えてくれたからこそ、成し得た戦果だ。 しかし、クラウドは「それ」を己一人で成し得たことにしろと言った。 それがどうしてなのかは聞かなかった。 訪ねたら教えてくれるだろうか? などと考えてしまうのは、きっと「ひとりであること」が淋しいからだ。 「……クラウド……」 無意識にまた、名前が唇から零れ落ちる。 「逢いたい………」 草薙に身を委ね、小さく身を丸めた少年の、声音が震えた。 「顔が…見たい…」 泣き出してしまいそうな感情が、胸に広がり身を焦がす。 刹那。 「呼んだか?」 声がした。 驚きに顔を上げれば。 少年の真正面に、己の視線に合わせて膝を着いた彼の人の端正な面が在った。 「クラウド…っ」 ガシャリ、と音を立てて草薙が床に落ちる。 と同時にセフィロスの身体はクラウドの腕の中に飛び込んでいた。 その、華奢な躰を抱き締めながら、青年は囁く。 「お前が望む時、俺は何時でもすっ飛んで来る……約束、しただろ?」 ずっと一緒に在るのだから。 耳朶を擽る快い声に、セフィロスはコクリと頷くのだった。 暖かい時間が、包む。 緩やかに。 誰の邪魔も、在りはしない。 此処には唯ふたり。 淋しさに震える魂の主を、大きな腕で包む人だけが存在していた。 |
戯れ言 英雄伝説の始まり…って、割りには実にまったり話。 未だ未だ巧く子セフィが表現出来てないってところが、情けなさ大爆発。 その内それなりに描(えが)けるようになる…と、イイなぁ…。 2003.09.04 |
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