唯 |
ACT.1 |
幾度となく、何度となく聞かされた。 何時でも、どんな時でも思い続けた。 自分が殺戮の血潮の中に在るのは、その存在のためなのだと。 それが真実か否かなんて、どうでも良い事だ。 在るのは、恨み。 在るのは、哀しみ。 それを癒す事など、もはや誰にも出来はしないのだと、思い続けて暗い刻を過ごすしか許されはしなかった。 |
先程まで忙しなく周囲の者たちに労いの言葉を掛けていた、反帝国の盟主である光の皇子の姿が、何時の間にか見当たらなくなっていることに気が付いたのは、この度の戦いで一応は反乱軍に席を置く事になったばかりのアレスだけだった。 何故ならば。 彼の目線は常に光の皇子であるセリスにのみ注がれていたから他ならない。 付きまとってくる踊り子のリーンを軽くあしらいさらりとかわした後、アレスは宴から席を外す。 セリスの気配を追って、足音さえも忍ばせ歩んでいたアレスの足が不意に止まる。 回廊をから伺えるアルスター城内に設えられた庭園に、確かな人影を見つけ出したからだった。 途端。 アレスの目が微かに潜められる。 更けつつある夜の庭園に一人佇むセリスの姿が、松明の明かりに照らされ浮き上がっている様を目にしたためだ。 唐突に。 それまで天を覆っていた雲が途切れ、淡く澄んだ月光がセリスのみに降り注いだ。 まるで幻想的な映像だと一瞬思った瞬間。 アレスはその考えを否定すべく首を振り、奥歯をギッと噛み締める。 そんなことは思ってはならない。 そう。 己は本来ならばアグストリアのノディオンの王として存在している筈の者だった。 そうならなかったのは、唯一人の男の所為だ。 脳裏を過るのは、母によって夜毎に繰り返し囁かれた父王の無念の死に様。 慣れない苦労に若くして逝かねばならなかった、母の惨めな死。 そして何よりも。 傭兵部隊に拾われ、屈辱の日々を幼少より過ごさねばならなかった自分。 悪夢が如き様々な現実を齎したのは、シアルフィのシグルド公子。 だけれど、そのシグルドも既に亡い。 全身を突き上げる憤りは、理不尽と解っていてもシグルドの忘れ形見であるセリスに向けるしか術はなかった。 憤怒の感情を押し殺す事も出来ず、アレスはツカツカと歩み寄る。 ひとり佇むセリスに向かって。 突然の凶暴な気配と乱暴な足音とに静寂を破られ、驚いたようにセリスが視線を巡らせたその先に、怒りの表情も露なアレスが居た。 「…アレス…」 仲間になった時、今後の動向を伺い見ることでこれからのセリスを判断すると言ったアレスである。 何を切っ掛けに彼の心の奥底に植え付けられた怒りが爆発するか、予測など出来はしないのだとセリスは知り尽くしている。 そのつもりだったのだが。 間近に歩み寄る彼の存在の、あからさまな憤怒にどう対処すればいいのか、セリスには皆目見当が付かなかった。 「…こんな所にひとり優雅に御佇みになられておられるとは、いい御身分だな…」 後一歩踏み出せばぶつかってしまいそうな程に間近に迫った位置で歩を止めたアレスの、予想違わぬ辛辣な言葉を投げ付けられ、セリスは表情を曇らせる。 「そんなつもりは…」 「では、どんなつもりだ?」 屈み込み、セリスの顔を覗き込むアレスの吐息に混じるのは、確かな酒臭。 アルスターを攻略した祝いの宴の最中なのだから、自分とても酒盃は傾けてはいるのだけれど、何故かかれのそれは強烈に感じ取れるような気がしてならなかった。 どんな敵にも果敢に立ち向かえる筈の自分が、紛れも無く恐怖を感じていると自覚して無意識に身が竦む。 「酒盃に火照ったから…」 少し風に当たりたいと思ったと唇が象るが、それは声にはならなかった。 突然、セリスの顎をアレスの指が強引に掴み上げた所為だった。 「…ッ」 「お育ちがよろしいんだな?」 セリス様は。 凍り付くような冷淡な視線と揶揄するような冷酷な言葉が、セリスの背筋に冷たいものを流れさせるのに十分な効果を齎す。 「貴様がシャナン王子らに守られイザークのティルナノグの城で身を潜め安穏とした中でぬくぬくと暮らしていた頃、俺は生きるために血塗れの戦場を駆け抜け幾つもの屍を積み上げなければならなかった」 刺すように冷たいアレスの瞳が、怖い。 次第にセリスの息が荒くなる。 顎を掴み上げる指先に後少し力をこめたら、光の皇子のそれは簡単に砕けてしまいそうな程に華奢だ、と思考の片隅にチラリと過るが、そんなことは知ったことでは無いのだとアレスは振り切った。 「それもこれも、全ては貴様の父の愚行の所為だ!」 鋭い呼気を伴ったアレスの低い唸りの声に、それ自体が誤解なのだと伝えたいが、今は何を言ったとしても受け容れては貰えない事など百も承知していた。 「その責、どう取ってくれるんだ?」 冷淡な口調とは裏腹の、激したそれはセリスを追い詰める。 「…では君は、どのようなことを私に望むんだ?」 どのように責任を取れば、納得すると言うのか。 誤解から生じた現実を覆すには、決定的な証拠が必要なのだけれど、それを持たない自身には如何ともしがたい。 だから、自分の行動で彼を納得させようと努力しようと思っていた。 そんなセリスの応えに、アレスは僅かに思考を巡らせた後、酷薄な笑みがその面に浮かび上がった。 「そうだな…例えば」 酷薄な表情を訝しんだセリスへ、 「…例えば、光の皇子様に慰めていただくというのは、どうだ?」 野卑な言葉を吐き捨てた直後、アレスはセリスに覆い被さる。 直後。 セリスの薄い唇は強引に奪われた。 「 ! 」 あまりにも突然すぎる行為に一瞬身を硬直させたセリスだったが、ハッと我に返り全身で抗い始める。 が、元より骨格の違いゆえにか、激しく差の在る体格差が災いしてセリスの身はあっさりとアレスに押さえ込まれてしまっていた。 もがけばもがくほど、アレスの噛み付くような口付けは荒々しさを増し、息が次第に詰まる。 苦しい。 その陵辱行為から逃れるために、セリスは咄嗟に己の口内を舐るアレスの舌に歯を立てた。 「この…ッ」 思わぬ反撃にセリスを引き剥がしたアレスの、唇から一筋の鮮血が滴った。 「遣ってくれるぜ…」 鮮血を手の甲で拭い、低く呟くアレスの瞳は血走っていた。 肩で息を乱すセリスはけれど、そんなアレスの視線を真っ向から受け止め言い放つ。 「これが君の望むことか…ッ」 屈辱に表情を歪めたセリスの声は、決して大きくは無い。 それでも圧倒的な威圧感をアレスに与えるには十分すぎる程で有った。 が、眩暈がするほど強烈な気をまともに打ち付けられている現状に甘んじ、沈黙する程アレスは軟では無かった。 「…だとしたら、どうだと?」 答えるアレスの言葉に先程までの憤怒は伺えず、唇をキュッと結んだ後。 セリスは王者の威厳を纏ったままに応えた。 「それで君の言う責とやらがとれるのならば、この身を好きにするがいい」 今のアレスに何を説明したとて、火に油を注ぐようなものだ。 ならばとばかり、セリスは自らを差し出す事で彼の意識を静める決意を露にする。 「本気、か?」 言われたアレスが面食らうのも無理は無かろう。 つい寸前まで目前にある存在は、唇を噛み締め蒼褪めた表情で屈辱と恥辱とに己を睨み据えていたのだから。 それがどうして、こんなにもあっさりと自らを差し出す真似をやらかせる。 アレスが疑問を浮かべた刹那。 「私は何で有れ、偽りを由とはしない」 たとえどんなに不条理な事だとしても。 自分で決め、自ら口にした事を覆す事など決して出来ない。 するつもりも無い。 大陸に平穏を取り戻すべく、戦いに身を呈した時からセリスの意志は変わらなかった。 今回の事も、それらの一貫した自身の考えの表れなのだ。 毅然とした態度で応えるセリスに思わず脱力してしまう。 アレスは深く嘆息を漏らすと、低く呟く。 「…止めた…」 「え…?」 「何だか馬鹿馬鹿しくなって来たから、止めた」 肩を竦めて言葉を零すアレスの眼差しは、変わらず鋭いものでは在ったけれど。 殺気は微塵も感じ取れなくなっていた。 「こんな事でお前を傷つけたとしても…面白い訳ではないしな」 「アレス…」 父王譲りの端正な面に苦い笑みを滲ませ、アレスはもう一度溜息を吐き出した後、クルリと踵を返した。 「今のは悪かった。酒の勢いで悪さをした、とでも取ってくれると在り難い」 セリスに背を向けたまま、アレスは謝罪を口にする。 「ああ…解った。気にしないことにする」 応えるセリスの面に、微笑が浮かんだのも束の間。 「…だが、勘違いするな。俺はお前の父親を、そしてお前を許した訳ではでは無いのだからな」 言い捨ててアレスは立ち去っていく。 その、アレスに掛ける言葉が見付からず、黙って後姿を見送るしか出来ないのが苦しかった。 再び静まり返った庭園で、残されたセリスは考え込む。 どうしたら彼を救えるのだろうか、と。 どうすればこの誤解は解けるのだろうか。 けれど答えが見付かるはずも無い。 真実はきっと在る。 いつか必ず、応えは見付かる。 それまでは堪えるしかないのだ。 俯き、無意識に己の唇に指を添えた途端。 その唇にアレスが口付けたのだという現実を思い出し、セリスの面は火が点いたかのように赤く染まるった。 強引に奪われたのに。 何故今頃になって自分は頬を熱くしているのだろうか。 セリスは困惑を隠せずには居られないでいた。 そして。 一方のアレスもまた、自室に戻る途中不意に歩を止め、自らの唇に残る感触を思い起こして赤面している事を、セリスは知らなかった。 |
アルスターからコノート、そしてマンスターへ。 セリスの軍勢は着実にグランベル帝国の牙城を切り崩していた。 そんな中で、明らかに変化したのはアレスとセリスの立場であろうか。 これまでは、何かに付けてアレスがセリスを見たり睨んだりしていたのだが、今ではセリスがアレスに気を取られ、事在る毎にアレスの姿を目で追うようになっていたのだ。 アルスター城の庭園での一件以来、それが顕著に表れている。 逆にアレスはセリスから不意に視線を外す事が多くなっていた。 軍師であるレヴィンがこの様を訝しんで、幾度となく何事か在ったのでは無いのかと尋ねてくるのだが、セリスは唯首を横に振り「何事も無い」と繰り返すのみだった。 「はぁ…」 かつてのレンスター領域であった、現トラキア国境に建つミーズ城を制圧し、いよいよトラキアへの進撃を開始すると言う前夜。 城主の豪奢な私室の寝台に寝転がり、セリスは深く溜息を吐き出した。 休まなければ明日に差し障ると言うのに、目が冴えて眠れない。 心が騒いで眠れないなど。 一軍を指揮する将としては、失格かもしれない。 その理由は、明白だった。 軍議を終えて部屋に戻りかけたセリスは偶然、アレスとナンナのふたりを見かけた。 元々イトコ同士なのだから、一緒に居る事は何ら可笑しな事ではないのに。 その時の二人の様子がとても親密に見えた。 しかも、その時のアレスの真摯な眼差しは、セリスが初めて見るような代物だったのだ。 親密な二人をそれ以上見ていることが出来なくて、逃げるように自分の部屋に飛び込んでから、随分と無為な時間が過ぎたような気がしていた。 「あの二人、とてもお似合いだな…」 漠然と呟いた声音はも酷く掠れていた。 己の指先がつと唇に触れる。 あの夜、アレスが強引に奪った唇。 最近、それが癖になりつつある行為だと、セリスは自覚していた。 酒の勢いの戯れ。 アレスはそう言った。 そうしてくれ、と。 思い出して切なくなる。 自分がこんなにも一人の人間に心奪われてしまうとは、思いも寄らなかった。 今はそんな時ではないのに。 自分には成し遂げなければならない事が在り過ぎるほどに在ると言うのに。 けれど、心は正直だ。 「アレス…」 セリスの唇が、小さくその名を紡ぐ。 今、逢いたい。 彼の顔が見たい。 許されざる想いなのは百も承知で、セリスが願ったその時だ。 不意にセリスは身を強張らせた。 もしかしたら、これが彼の言う「責」なのではないだろうか、と。 思ったらそうに違いないという考えが一気に膨らむ。 だとしたら何て酷な責だろう。 「…っく…」 そう思った途端鼻の奥がツンと痛みを訴え、唐突に視界がぼやけ出した。 喉の奥から無意識の嗚咽が溢れたかと思うと、もはや止まる気配も皆無だ。 苦しくて切なくて、堪らずセリスが身を屈めたその時だ。 唐突に部屋の扉が小さく叩かれたのは。 「…誰…?」 慌てたように身を起こして扉に向かうと、そこに在ったのは今、セリスが一番逢いたいと願っていたアレスその人であった。 |
幾度となく、行ったり来たり。 重厚な扉の前をアレスは近寄っては離れ、離れては近寄ると言う反芻行動を繰り返していた。 部屋の主の警備兵は、既にアレスが来た時にさっさと追い散らしているので、現在の無様にうろうろとしている様を見られる事は無い。 が、何時までもこうしていても埒があかないのも現実で。 意を決して扉の前に立ち、軽くそこを叩けば。 部屋の主にして光の皇子が酷く慌てたように顔を出す。 「…誰…?」 「セリス、話が…」 有るんだが。 言いかけたアレスが思わず言葉を飲み込み、ギョッと表情を顰めたかと思った刹那。 セリスの腕を有無を言わさず取ると荒々しく室内に飛び込んで扉を後ろ手で閉めると言う行動に出た。 「ア、アレス…!?」 突然のその行為に驚愕の隠せないセリスが名を呼んだ途端。 些か怒ったような表情で彼の人が怒鳴りつけて来る。 「何を泣いているんだっ、お前は!」 アレスの怒声でセリスは、言われて初めて己が涙を流しているのだと悟る。 「え…?」 その様子にセリス自身、泣いていた事を自覚していないのだと知ったアレスが困惑の表情を浮かべたので、 「す、済まない」 焦ったように手の甲で涙を拭おうとした。 が。 そのセリスの腕をアレスは不意に掴み上げると、無意識に身を屈めて自らの唇を濡れた頬に寄せて雫を舐め取ったのだった。 忽ちセリスの面に主が走る。 「あ…」 涙が全てアレスの唇で拭い取られるまで、セリスは呆然と硬直し尽くすしかなかった。 「アレス…」 やっとのことで震える声音で名を呼んだ瞬間。 深い蒼の瞳と目が合った。 吐息が触れるほどの至近距離。 何かを問い掛けようとするよりも早く、アレスの唇が再び降りてくる。 今度はセリスの唇に。 微かに重なる柔かな温もりと快い感触に、セリスの思考は真っ白になる。 想像もし得なかったアレスの行為に、胸が激しく高鳴る。 「ん…」 セリスの吐息が零れ落ちた時、漸くアレスは身を離した。 「話が…有って来た」 面を朱に染め己を見つめるセリスに、アレスは囁くように言葉を紡ぐ。 「話、って…?」 今のは夢でも見たのか、未だに事態が信じられないのか。 セリスの眼差しが潤むようにアレスを見つめている。 「ああ…。今迄俺が、お前の父を仇と思っていた事が、全て誤解だと解ったんでな」 謝罪に来た。 「え?」 穏やかな口調で囁くアレスの言葉を耳にして、夢見心地だったセリスの表情が一瞬にして常の彼のものにと変化した。 良く見れば。 酷く悔やんでいるのだろうアレスの、唇の端が歪んでいる。 口惜し気な眼差しがセリスを真摯に見下ろしていた。 「ナンナの母…つまり、俺の伯母上であるラケシス姫が認(したた)めておられた手紙を今日、受け取った…」 「それって…」 もしや夕刻のアレスとナンナの親密気な様子は、これの事だったのかと思い至り、セリスは理解すると同時に安堵している自分に愕然とする。 「すまなかった、セリス…」 幾ら謝っても謝り足りない。 被害者ぶって、どれだけ辛辣な言葉を浴びせ掛けてきた事か。 苦しめた事か。 アレスの心の中に負の感情が渦巻いていた。 その上、自分は先日に引き続いてセリスの唇を奪う暴挙にさえ出てしまった。 泣いている様を目にした瞬間、いてもたってもいられず思わず涙を唇で拭い取り、あまつさえそのままの勢いで口付けたのだが。 更に言うなら、口付けを快いと感じてしまったなど愚の骨頂であろう。 だのに、己の意識は謝罪の言葉を続けている。 「許してくれ、とは言わないし言えない。ただ俺には、頭を下げるしか出来ん」 セリスの腕を放そうともせず、アレスは無意味な言葉を紡ぐ。 と。 「良いんだ、アレス。だって全てはアルヴィス皇帝が仕組んだ事なのだから。君の所為でも私の所為でもないんだ。だから…」 セリスの穏やかな微笑が、胸に刻み込まれる。 帝国随一の美女と謳われた、ディアドラ皇女と良く似た面差しのセリスの整った面をまじまじと見詰め、息を飲む。 彼をこんなにも美しいと思ったのは、初めてだった。 「…許してくれるのか?」 もどかし気に零す言葉へ、コクリとセリスは頷いた。 「私たちは…これからは本当の仲間だね」 「ああ」 その笑顔につられたアレスの面にも穏やかな笑みが浮かんだ。 本当の仲間。 その言葉に、決して有り得ないと思っていた己の心が癒される。 もう彼の心に闇は無く。 目前にある存在に跪いて忠誠を誓い、聖なる戦いに赴けば良いのだ。 己はもはや、ひとりではない。 「嬉しいよ、セリス」 心からの笑みを浮かべたアレスの腕が、クイっとセリスの身体を引き寄せると、己の腕の中にすっぽりと収めていた。 「ア、アレス…っ」 唐突な行為に焦るセリスの耳元に、アレスは囁く。 「セリス、お前…さっき何で泣いていたんだ?」 途端。 セリスの面に朱が走る。 「え…、あ、その…別に何でも無い…よ…」 返答に窮したセリスの、しどろもどろの応えにアレスの目が細まる。 「何でも無いって面か? それが」 口許に薄く笑みを浮かべたアレスの面が、間近に迫る。 吐息が頬に触れてくる。 「何があったか言ってみろ、セリス…」 そんな言葉に、どうして応えられようか。 アレスとナンナがお似合いで、胸が痛くて涙を零していたなど。 恥ずかしくて、とても言えない。 なのに。 アレスの端正な面は、今にも再びセリスに覆い被さるが如くに有る。 嬉しい。 困ったことに、現状はセリスにとってとても嬉しかった。 結局逃れられず、セリスはアレスの背におずおずと縋り付くように腕を伸ばして小さな声で応えを返した。 「だって…」 「ん?」 セリスのその手の温もりを快さ気に受け止めたアレスが、先を促す。 「だって…君とナンナ…とても、お似合いだから…」 戦慄くセリスの唇が、可愛らしい。 否。 何より、今の言葉はとても嬉しかった。 「セリス…」 寸前よりも強くセリスを抱き締め、アレスは再度セリスの唇を奪った。 今度はより強く。 貪るように。 「ん…っ」 縋るセリスの掌に力が篭った。 |
ちみっと後書き(笑) ってな訳で、ラスト以外はアレス×セリスの本「情熱」からの転載です。 ラストシーンは全然違います(笑) だって、本の方ではキスシーンなんて無かったですから(笑) 続き(や○いシーン)を書きたくて、変更です。 で。 その肝心の続きは、何れまた(爆死) |
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