大好き!

「えっと…もう一回言って貰えませんか?」
つい寸前、自分の耳に飛び込んできた言葉の意味を捉えかね、タジは首を捻りつつ言葉を募らせる。
すると、
「何時如何なる時も側にいろ、私の元から離れるな」
寸前に聞いたものと寸分違わぬ言葉が、断定口調で放たれた。
「サリューンさん、それって…まるで求婚しているみたいです」
何とか意味を理解してタジが苦笑混じりに呟けば。
「みたいなのではない、私はお前に求婚しているのだ」
真摯の眼差しで断言されて、恐々と言ってみる。
「…あの、俺…男なんですが?」
「関係ない」
あっさりと返されてしまい、タジは絶句した。

ヴィーデルンの覇王、サリューンの爆弾発言は、一夜にして全大陸を震撼させるに至った。
それも無理は無いだろう。
諸国の君主らは寝耳に水なこの事態に、タジ同様絶句したとか蒼白になった(かは、定かではない)が、何分覇王の成す事。
誰が文句を言えるで無く。
呆然としている当事者を除いて、アッと言う間に段取りが整えられたのだ。

「大変ねえ」
タジ同様、サリューンの一の武将と言われるネイが開口一番に言ってのける。
ちょうど定例会議でヴィーデルンに来る事になっていたネイは、頭痛を感じながらに呟いた。
サリューンが以前からタジに何か強い想いを寄せていたことは判っているつもりだったのだが、これは壮絶な事態である。
「今回の騒ぎを耳にした時は、冗談かと思ったけど…冗談ではないみたいね?」
しげしげとタジの姿を見つめて、彼女は苦笑を漏らす。
「笑ってないで何とかして貰えませんか?ネイさん」
通常の着衣を剥ぎ取られ、同色の蒼いドレス仕立ての長衣を無理やり着せられたのだろうタジが困ったように救いを求める。
「こんな格好させられて、俺、凄く困っているんです。その上部屋の外には見張りまでつけて…サリューンさん、此処から出してくれないんですよ」
心底困っているのだろうタジの言葉に、彼女は大げさに溜め息をついた。
祝辞を伝える、とでも言わなければ自分でさえタジの(閉じ込められた)部屋には入る許可が降りなかった所を見ると、サリューンの本気が伺える。
だが。
「とは言ってもねぇ…」
覇王に逆らえるものがこの世の何処に居ると言うのか。
忠誠は誓わされたが折角シンを彼女に返してくれたサリューンに、彼女は端から反逆するつもりはなかった。
「でも、似合ってるわよ?タジ」
それどころか、面白がっているとしか思えない言葉を平気で募らせる。
「あのですね…。俺は男なんですよ?男の俺ではサリューンさんの子供とかは産めないんですからぁ」
「…なぁんだ、別に嫌がってないじゃない?」
呆れた表情で肩を竦めるネイに、
「俺、嫌だなんて言ってませんよ?」
真顔で応える。
ただ困っているだけなのだ、タジは。
自分だってセイラムの王だった身だ。
王は次代に跡取を残さなくてはならない訳だから。
そう考えると、自分でそれが出来ない訳で。
だから困っている。
タジの表情から其処までを読み取って、ネイは笑った。
艶やかに。
「それ、陛下に言った?」
「…いえ…」
フルフルと小さく首を振るタジに、ネイは優しい眼差しを向ける。
両思いじゃないの。
無理強いなんかしなくたって。
「だったら、結婚しちゃいなさい」
「え、でも…」
今言った事、聞いてます?
タジが困惑を露にする。
「いいのよ、どーせ陛下の事だから、何とかするでしょ。だから気にせずお嫁に行っちゃいなさい」
「だけど、コレ…」
男として、やはり恥ずかしいのだ。
ドレス調な着衣は。
「じゃあ、ちゃんと結婚を承諾して、そうじゃない服貰えばイイのよ」
「ええっ?」
「嫌じゃないならイイじゃない」
ネイの悪魔な囁きに、タジが小首を傾げて思考を巡らせる。
そんなタジを見つめつつ、彼女は内心思う。
彼が納得すれば、話は随分進展するでしょうね。
もしかしたら坂道転げ落ちるみたいに、可笑しな方向に行くかもしれないけど。
どっちみち、まともじゃないのだから放っておこう。
第一あたしには関係ないし。
などと思っている事は露にも出さず、彼女はにっこり微笑んだ。
「うん、そうしてみます。ありがとう、ネイさん」
「どういたしまして♪」

ネイと入れ替わりに入室して来たサリューンを見つめたタジは、生真面目に言葉を募らせる。
「俺、サリューンさんと結婚します。だから…これ、何とかして下さい」
裾を持ち上げ、タジが潤む瞳でサリューンを見上げれば。
「…そうか、解った」
不意にタジを抱き上げ、サリューンは少年の身体を寝台に横たえると、嬉々とした表情で着衣を剥ぎ取り始めたのだった。
「あ、あの…っ」
「ああ、解っている。コレを脱ぎたいのだろう?」
「は、はい」
「ならば黙って従え」
サリューンの声にタジは大人しくするしかなかった。
タジの素肌にサリューンの長くて綺麗な髪が滑り落ちる。
擽った気に目を細め、タジはその髪に指を絡めた。
「…世継ぎとか、どうするんです?」
生まれの姿にさせられたタジの呟きに、サリューンは薄く笑う。
「何処かから貰ってくる。気にするな」
「え?」
とんでもない台詞を聞かされ、何かを言おうとした唇はしかし。
次の瞬間、あっさりと封じられてしまった。
サリューンの深い口付けによって。


後の世に。
ヴィーデルン王朝最後の直系たる大陸の覇者、覇王サリューンの挙式は、過去類を見たことも無いほどに絢爛豪華で有ったと記されている。
覇王は、この後。
身分でも地位でもなく、能力者が後継に選ばれる制度を施行する。
結果、見事な為政者として長く歴史にその名を留めるのだった。
その傍らには常に伴侶である可憐な黒髪の少女が存在し、覇王を支えたと記されている。
リクエスト内容:結婚話でH

…馬鹿な話ですみませぬ〜(滝汗)
こんなんでお許し下さいね、michet様(平謝)

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