おまけ
意気揚々と進軍する帝国軍の面々の中。
唯一、表情を渋面で彩る者が在った。
「どうしたんだよ、エルウィン。朝から変だよ?」
如何にも不機嫌です、と言ったエルウィンの表情を見遣りヘインが不思議そうに尋ねる。
「…少し寝不足なだけだ…」
「そりゃ良くない。ちゃんと休まなくちゃ戦士としちゃ失格だぜ」
ロウガが呆れたように言って退けるのを無視して、エルウィンは寝不足の原因へ視線を投げ付ける。
その先に在るのは、レオンの姿。
地図を片手に傭兵たちとの打ち合わせに余念の無い様子である。
「…あんなに痛いなんて…」
ボソリと低く漏らした呟きを、傍らに居たヘインが聞き届けた。
「何が?」
その問いかけにギクリと身を強ばらせ、何でも無いと答えようとするより早く、ヘインが意味深な笑みを口元に乗せた。
「なぁんだエルウィン、レオンとやっちゃったんだ?」
あっさり言われ、エルウィンの面は火が付いたように赤く染まった。
「あっ、な…っ!」
「道理で不機嫌な訳だよね。当然エルウィンは初めてだったんだよね?」
それで、凄く痛かったんだろ?
言われて思わず頷いてしまったエルウィンは悪く無い。
「いけないなぁ。初めての時は気を付けなくちゃいけないのに。相手を不機嫌にさせるなんて、やっぱ最低だよっ」
一体何が最低なのか良くは解らないが、あまりの言われように旨く言葉が出て来ない。
唖然と自分を見つめるエルウィンを無視して、
「次は気を付けるように言っとかなくちゃ」
ヘインは独りごちる。
「…ヘ、ヘイン…」
呆然としたままのエルウィンに、ニコリと笑ってヘインは胸を張った。
「大丈夫、おいらに任せてよ! ちゃんと旨く行くようにしっかりアドバイスしとくからさ! エルウィンは何も心配しなくっていいんだよ。アレって初めが肝心なんだからさ」
何たってエルウィンはおいらの命の恩人なんだから。
こんな時こそ役に立たなくちゃね。
勝手に一人で盛り上がってくれるヘインを、エルウィンは何とかしようとするのだが、意気込む魔道士の少年を止める術は無かった。
敵でも何でもいいからこの状況を何とかして欲しい、と無意識のエルウィンの祈りが天に通じたのか。
レスター率いる反帝国軍が橋の向こうに姿を現した。
「い、行くぞ、みんな!」
怒鳴り声を上げて、真っ先にエルウィンは駆け出した。
だが。
敵の出現に喜ぶエルウィンは、忘れているようだ。
問題は、あくまで先延ばしになったに過ぎないのだと言う事を。
前途多難な新たな旅は、未だ、始まったばかりだった。
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■中書き(笑)
まだまだまだまだ、2人の恋には波乱が纏わり付いて、そぉは問屋が卸さない状態が続いてる訳ですが。
ここで第一段階は一先ずハッピーエンド、って感じです。
「聖戦」の一冊目を出した6年前、続きは当然書こうと思っていたけど明らかな続き物風にするのもチョットな〜、と考えてのオチでした。
この辺りでは、まだ「レオンのグルグル思考」は大人しいのよね(謎笑)
や○いシーンはソフトだし(爆)
次はかなり凄いんだよね〜、いろんな意味で(笑)
ワープロFDの方の手直しをした後こちらにアップいたしますので、続きは暫しお待ち下さいね。

■洛陽/序.act.1 act.2 act.3
初出/聖戦(1995.8)