愛していると言ってくれ
 まだ半分。
 やっと半分。
 世界の全てを手に入れるのは、ちっとやそっとの事では行かない重労働だ。
 なのに。
 運命だとか何だとか難癖付けてくる者たちは
『一刻も早く』
などと、勝手な事ばかりほざいてくれる。
 いい加減にして欲しい。
 その時、まだ15の少年は、思わず唸るような声を吐き出した。
「あーもぉ!」
 言葉を吐き捨てて、ばったりとカウチに倒れ込んだ刹那。
「どうしました?」
 唐突な声が落ちてくる。
「・・・どうして此処にいる? サリューン」
 だって此処は己の部屋。
 今日、陥落させたばかりの砦の、一等豪華な君主の私室であった所だ。
 そこに何故、彼かいるのか。
 そんなタジの疑問に、サリューンはニコリと笑みを雫した。
「貴方に差し入れを持ってきた、と警護兵に言ったらすんなり通してくれましたよ?」
 タジの目の位置に、ワインの酒瓶を持ってきて言って退けれは、成程と納得するしかない。
「先程のお歴々とのやり取りで、貴方か不機嫌になっているのは承知しておりましたから」
 で、どうなさいます?
 サリューンの言葉にぐうのねも出ない自分を察し、
「・・・有り難く貰う」
 低くタジは答えた。
 その応えに、サリューンは勝手知ったとばかりにサイドボードからグラスを取り出し、どうみても年代物らしいそれを惜しげもなく並々と注いだ。
「この地方のは、とても美味だそうですよ。今宵はこれを飲んで早々に休まれるか良いでしょう」
「うん」
 身を起こし、ちんまりと座る少年王に一方を手渡すとサリューンはそれに軽く己の手の中のグラスを重ねた。

「れ、わらるらろ?」
 すっかり呂列の回らぬ舌で喚くタジを見つめるサリューンの眼差しは優しい。
 酔いの為にか。
 まなじりを赤く染めた様が、とても可愛いと思う。
 そんな事を言えば、すぐにこの少年王はすねてしまうので滅多には口にはしないけれど。
「ええ、わかりますよ」
 その答えに満足したタジは、傍らに座る彼の人の膝の上にぱふんと倒れ伏す。
「・・・サリュ、ン」
「はい」
 面を伏せたままに、タジは呟く。
「おれのこと、すき?」
 突然の問いかけに、けれどサリューンは真顔で答える。
「好きですよ」
「・・・もっと違うのが、欲しいよ」
 違う言葉。
 好きと同じで、けれどもっともっと深い想いを込めた言葉が。
 欲しい。
 タジの言わんとしている意味が解り過ぎる程に解ってはいるけれど。
「お望みならば何時でも」
 穏やかな眼差しの奥の、瞳が怖いほどに真摯の色を露にする。
 だが、それをタジは目にすることは無かった。
 何時の間にか、少年は眠りの中にと身を委ねている。
「おやおや・・・」
 微かに苦笑を雫し、サリューンはタジの身を抱き上げると寝台に横たえて、漆黒の癖の有るその髪を軽く撫ぜた。
「タジ、貴方だけを---」
 その頬に唇を寄せ彼は囁く。

 その言葉を聞き届けたのは、宵闇だけだった。



2000.02.17 up