ずっと。
ずうっと共に来た。
獣人族の姫として、セイラムに攻め込み戦いに敗れた瞬間から、マサリバはずっとタジと共に突き進んできた。
それはこれから先の未来までも続く筈だ。
そう信じて疑わなかった。


「…また、なのだ…」
最近、タジはいつもあの女と一緒にいる。
ネイという、シンの女王が同朋の一人となって以来。
今迄自分がいた筈の場所に、ちゃっかりと居座っている。
何かといえば自分を直ぐ小馬鹿にするあの女が。
どうしてタジは自分ではなくてネイと一緒にいるのか。
解らない。
胸の辺りを手で抑え、マサリバはジッとタジとネイが居るのを見つめて息を吐き出した。
「はあ…苦しいのだ…」
どうして苦しいのだろう。
その理由が知りたい。
でも、どうやって?
誰に問えばいいのだろう?
「そうだ!」
俯き気味だった顔をバッと上げたマサリバの面が、輝く。
悩んでみても始まらないのだとしたら。
もうこれしかない。
「直接、聞けばイイのだ!」
決意を秘め、マサリバはキュッと自分の両手に力を篭めるのだった。


その夜。
決意を秘めた故にか真顔で訪れて来たマサリバを出迎えたタジに、彼女は単刀直入に切り出した。
「どうしてなのだ?」
「え?」
突然のマサリバの言葉にタジは目を白黒させる。
「な、何が、だい?」
椅子を勧める暇さえ与えず言葉を放つマサリバに、困惑が拭えぬままタジが問い返す。
「何故ネイなのだ?」
「?」
言いたい意味が掴めなくて、マサリバの顔をまじまじと見つめていると、彼女は不意にタジに飛びついて来る。
己の腕の中に飛び込む少女の、思った以上に柔かな感触と温もりにドキリと胸が高鳴ったその刹那。
泣き出しそうな眼差しでマサリバは言い放つ。
「あたしだっているのに!」
「えぇ…っ!」
そこまで言われたら如何に奥手なタジとは言え、彼女の訴えたい事が解らないほど愚かではない。
が。
「どうしてネイなのだっ」
終いには怒ったようなマサリバの口調を耳にしたタジの思考は、けれど、唐突過ぎて旨く廻ってはくれなかった。
「どうしてっ」
必死に縋りつくマサリバの温もりを受けてめている内に、タジの頬が次第に熱を帯びて真っ赤に染まる。
女の子とこんなに接近した事なんて、これまでに一度も無かったタジは混乱の極みに有った。
「え…と。ネイさんは…心強い味方だよ」
廻らぬ舌で唇を幾度も舐めつつ、タジは懸命に応えを出そうと言葉を紡ぐ。
「あたしだって居る!」
「うん、解ってる」
「じゃあ、どうして?」
どうしてネイが今迄自分が有った場所に居るのかと、マサリバの真摯の眼差しがタジにぶつけられる。
「こんなに苦しいのにっ」
胸が痛いほど苦しいのに。
タジには全然解ってない。
マサリバの大きな瞳に自分が映る。
自分だけを見つめる少女の切ない想いに、どう応えていいのか、タジにも良くは解らなかった。
確かなのは、腕の中の少女が切ないほどに温かいという事。
そして、震える少女を、これ以上嘆かせてはいけないという事だ。
「マサリバ…もう少し、時間が欲しいよ…」
俺自身、これからどうなってしまうのかが解らない。
だからもう少し待って欲しい。
それじゃ駄目かな?
タジの真摯の応えに、マサリバの面に輝きが灯る。
「待つ…!」
タジが応えてくれる日を。
「うん」
自分自身の気持ちがはっきりする、その時に。
きっと。
そして、それは決して遠くは無い未来に結論が出せるに違いないから。



「行って来るわねっ!」
ネイの凛とした声が放たれる。
彼女と共に同行する神剣士たちの背を見送りながら、タジはそっとマサリバの傍らに歩み寄った。
「ネイさん行ったね」
「…どうして一緒に行かなかったのだ…? タジは…決戦の”お供”に選ばれたんでしょ?」
「うん。でも、もしもの時に未練が生まれたら戦力にならないかもしれないって”お断り”したんだ…」
苦笑混じりにタジは頭を掻いた。
「未練…て…」
マサリバが驚いたようにタジを見つめる。
「結論…やっと出たんだ」
ニコリと笑って少年はマサリバの身体を抱き寄せる。
「これからも、ずっとマサリバと一緒にいたい…って」
「タ、ジ…っ」
「いや、かい?」
問われた途端、マサリバはブンブンと大きく首を横に振る。
「ヤな訳、ないっ!」
自分からもタジに抱きつき、マサリバは少年の胸に頬をすり寄せる。
何時の間にか、あの時よりも逞しくなったタジの腕に身を委ねる彼女の胸に、痛みは最早無かった。
「何処までも、一緒だよっ!」
「うん、一緒だ」
タジの腕の中、マサリバは快さ気に目を細めるのだった。
END 




こういうのも「有り」ではないかな〜と、
通常とは違う切り口でSSを書いてみました(爆死)