sakura![]() |
2. あんな事、誰が信じるんだよ。 この目で見た自分が一番、信じられないって言うのに。 ザックスは先程のセフィロスの言葉を胸の内で反芻しながら内心、悪態をつく。 自分と大差の無い年頃の青年の、強大な力を見せ付けられた揚げ句にに、セフィロスのあの甘えっぷり。 誰にどう説明したって、一笑に付されるに違いないだろう。 勿論、こんな事を一々誰かに言うつもりは無い。 命令されたからではなくて、自分自身があの現実を信じたくは無かったからだ。 自分と同じ新兵たちがセフィロスの蘇生魔法で癒されて起き上がって行くのを、ぼんやりと眺めていた若者は溜め息をひとつ漏らした後、パンッと頬を軽く叩いて気分を切り替える事にした。 「…よしっ」 その様は、まるで今彼もセフィロスに蘇生されて起き上がったばかりの様相にも見えたのだろう。 「ザックス…お前も、大丈夫、か?」 一時的な仲間たちがザックスの元にのろのろと集まり不安を露にした声を掛けて来る。 「あ…?」 「いや、俺たちと同じだったんだろ?」 同じように倒れてたんだよな? そう思い込むことで、自分たち全員が全くの役立たずで有ることから逃れようとしていると気が付き、ザックスは眉を顰める。 一緒にして欲しくは無い。 して欲しくは無いけど、そうはいかないのだろうとセフィロスの方へ視線を向ければ。 彼の英雄は一瞬だけ口許に薄く笑みを象ったかと思うと、 「よくやってくれた、ザックス。お前のお陰でこの辺りのモンスターを排除出来た」 彼の名前まで呼びながら、淡々とした口調で一同の予想を覆してくれたのだった。 「 ! 」 ザックスを含め、驚き醒めやらない部下を見渡したセフィロスは顎を杓る。 「未だ反乱分子は潜伏している。意識を引き締めろ、ミッションは継続している」 「イエス・サー!」 セフィロスの命令に全員がピシリと敬礼し、引き続き戦いに身を踊らせるのだった。 「…まさか肯定されるなんて思わなかったな…」 その上、チーム編成をし直したセフィロスの、直接の指揮下に置かれる事になるなんて、想像の域を越えている。 英雄の背を追いながら、移動する途中でザックスは無意識にポツリと零す。 「お前の力は見ている。あのまま失うのは惜しいと思ったのは事実だ」 「そりゃあどーも」 喜ぶべきか、恐れ入るべきか。 その半々なのだろうとザックスは思わず上官への言葉とは思えない応えを返してしまう。 (やべっ) ついつい口に出してしまった本音に焦るザックスを、些か驚いた表情で見遣るセフィロスの眼差しには、先程までの怜悧さは見えない。 「…面白いヤツだ」 くつくつと笑うセフィロス、を真面に目にしてザックスは言葉を失う。 天下の英雄も、案外人間くさいんだなと感心していると。 「このミッションで派手な戦果を上げろ」 「…そしたら推挙でもするってか?」 有り得ねー。 セフィロスの言葉にザックスがケラケラ笑いながらおどけて言った途端。 「しても良い」 あっさりと返る応えに、驚愕する。 「マジかよ?!」 「マジだ」 思わず足を止め、不敵に笑うセフィロスを愕然と見詰めてしまう。 内容の凄さもさることながら、英雄が、あの英雄が、こんな応え方をするなんて思いもよらなくて、ザックスはこれ以上ない程に目を大きく見開いた。 「イメージじゃないか? オレの言い様は」 英雄に相応しくないか。 自嘲気味のセフィロスの声音に、ザックスは慌てて首を振る。 「そ、そーゆー訳じゃ…」 「お前がオレに”神羅の造った英雄像”を当て填めるのは自由だ。オレとて神羅という企業の一社員に過ぎないのだから当然だ。だが、それは真実のオレでは無い」 そう呟くセフィロスに、クラウドと言う若者の腕の中で目を細めて甘える彼が被さる。 あれが本当のセフィロスと言う事なのだろう。 きっと。 十代の若さで生きながら伝説の英雄と称される存在の、想像を絶する苛酷さが伺えたような気がして、ザックスはゴクリと息を飲み込んだ。 「悪い…」 「気にするな。…慣れている」 そーゆーのに慣れるのも、どうかと思う。 そんな思いが顔に出たのだろうザックスを見たセフィロスが再び呟く。 「お前はやはり面白い」 「…褒められてる気がしねー」 ぼやいて頭をバリバリ掻いてザックスは顎を引いた。 「兎に角、だ。頑張ればイイ訳だな?」 何にしても現実に戦果を上げなくては始まらない。 「そうだ」 ザックスの意思に応え、セフィロスは寸前までの青年らしい表情を掻き消し、冷淡を滲ませた面差しで頷いた。 「了解しましたっ、サー・セフィロス!」 数時間後。 北コレルに潜伏して居たと思われる反乱分子は一掃された。 英雄セフィロスの傍らで新兵とは思えない活躍をしたザックスは、その功績を認められ、ミッドガルに戻った途端ソルジャー候補に上がる事になるのだった。 コレルでのミッションを終え、セフィロスはミッドガルの兵舎にある自室で次のミッションに備え身を休めていた。 ぼんやりとカウチに凭れながらアルコールの入ったグラスを揺らす希代の英雄の、その眼差しは虚空に向けられている。 僅かな逢瀬ではあったけれど、久し振りに庇護者の貌を見れた。 抱き締められ、口付けられ、髪を梳いて貰った。 その瞬間瞬間を思い起こす都度、頬が、身の内が熱を持つ。 歓喜に奮えた喜びは忽ち切なさにすり替わる。 逢ったばかりなのに、また逢いたくて唇が音にならないその名を紡ぐ。 ―――クラウド――― 本当は何時も、何時でも側に在って欲しい。 振り返れば彼の人が傍らに在る生活、望みは唯それだけだと言うのに。 それが叶わない。 それだけが、叶わない。 「クラウド…」 狂おしい程に募る、唯一人の人を求める想いに焦がれて呟きが音を成したその時。 背後から温もりに抱き締められた。 「…っ!」 己の髪に顔を埋める愛しい庇護者の温もりを背に感じ、セフィロスの躰が震える。 「…お前は何時も、唐突だ…」 喜びに声音もが震えるが、止めることが出来ない。 「そうだな」 苦笑混じりの庇護者の声が耳を擽る。 顔を上げれば視線が絡む。 自然に寄せられる唇が重なり、セフィロスは目を伏せた。 啄むようなそれが次第に濃厚なそれに変わり、呼吸が喘ぎと化していく。 全身を熱が包んだ。 「ん…っ、ぅんん…っ」 酔うような、甘美な波に溺れるセフィロスの指が、愛しい人の腕に延ばされ縋り付く。 「は…ぁ…、ん…」 熱い吐息が繰り返され、翡翠の瞳が潤むに至った頃。 クラウドは愛し子を軽々と抱き上げ寝室へと向かうのだった。 「お前に見せたいものが在るんだ…」 己の胸で微睡みに落ちかけているセフィロスの、汗に濡れた銀のほつれ毛を撫で上げながらクラウドは甘く囁く。 「見せたいもの…?」 「ああ。凄く綺麗なんだ」 容易く落ちそうな瞼を開き、セフィロスが目にしたのは、愛しい庇護者の穏やかな微笑み。 トクン、と胸が踊る。 庇護者がこんなにも優しい眼差しをするものなのだ。 素晴らしいものに違いないだろう。 「…見たい…」 今直ぐ、見たい。 セフィロスの想いが募る。 「じゃあ、行こうか」 これから。 クラウドの眩しいほどの笑顔に頷いた時だった。 無粋なコール音が室内に響いたのは。 |
to be continued |
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すみません、続きはもーちょっと待って下さいー。