星降る夜に

 目が、追う。
 戦っている時。
 軍議の時。
 そして、何気ない仕草。
 唯、見つめているだけで心が騒ぐ。
 自覚したのは、一体何時からだろうか。
 切ないほどの感情が、どんどん大きくなり破裂してしまいそうだ。
 けれど。
 それを、それをどうして伝えられるだろう。
 狂おしい程の想いは、行き場のない出口を求めて当て所無く彷徨う。
 そして。
 放浪の果てに、それはついに破綻しようとしていた。

ACT.1

 周辺からは虫の鳴き声が響く程に、静かな夜。
「はあ・・・」
 エルウィンは一度だけ深くため息を漏らした後、聖剣の束を強く 握り締めていた手から僅かに力を緩める。
 つい寸前まで、激しい戦いが有ったとは到底思えない静けさに、強ばった表情も微かに綻ぶ。
 レイガルドの帝都まて後僅かのポイントに有る現在の地点では、反乱軍を警戒し続けねばならないという油断のならない現実故に陣地を後に自ら哨戒に出たのは、まだ陽が傾き出したばかりの頃である。
 たった一人で哨戒に出て来たが、既に英雄のクラスにある彼にとってどんな存在も最早敵では無かった。
 が、流石に疲労が激しい。
 早く戻ってゆっくりと休まなければ、間違いなく明日に差し支えてしまう事だろう。
 間近とはいえ、帝都までは早く見積もって3日は掛かる道程なのだ。
 しかも。
 帝都に辿り着く直前辺りに、敵軍が陣を敷くに適切と思われる地域が有る事をエルウィンは予測していた。
 長い旅の経験上、大陸各地の地図のようなものが自然に頭の中に出来上がっていたのである。
 だからこそ。
 エルウィンは、進軍の障害となりえる要素は全て排除したかった。
 反乱軍とて、無尽蔵に兵力があるわけでは無い。
 ならば、己という存在を餌にして仕掛けさせるのも戦略のひとつでは無かろうか。
 そんな思考の元、今日までに至っているのは無論皆には内密で有る。
 その筈だった。
 が。
「・・・無茶をする・・・」
 不意に掛けられたその声に、ギクリと振り返る。
「レオン・・・」
 大陸最強の青竜騎士と詠われる存在が、そこに居た。


「…何故、常に独りで行動しようと言うのだ!?」
 それ程我らを信頼出来ぬか。
 憤りを抑えているのだろうレオンの声は、そのためにか幾分硬く感じ取れる。
 無理も無いだろう、と思う。
 レオンが悪いのでは無い。
 はっきり言うなら、出来るだけ彼らの負担を省きたいという意志の表れから来ているのだ、エルウィンの行動は。
 否。
 違う。
 偽らざる本心を伝えるなら、彼のためと言っても過言では無いのだ。
 認めて貰いたい。
 他の誰よりも、レオンその人に。
 無論、それを口に出すわけには行かないけれど。
「…信頼、してるよ。凄く…だから、少しでも皆のために俺は…」
 言葉にしてみると、なんて陳腐なのだろう。
 自分で言って切なくなった。
「…如何にお前が我らの中でも最強の戦闘力を誇ろうと、独りでの 行動が危険ではないと断言など出来まい?」
 尤もなレオンの言葉に、更に追い詰められる。
「それが解らぬお前でも有るまいに…」
「じゃあ…、共に行動してくれって言ったら、してくれるのか?」
 思わず本音が口を衝いて出る。
 しまった、と思った時にはもう遅かった、が。
「良いだろう」
 至極あっさり返る応えに驚く。
 てっきり拒絶されるに違いないと思っていたのに。
 これは嬉しい誤算かもしれない。
「本当、か?」
「ああ」
「本当に、本当か?」
「…疑い深いな?」
 苦笑を漏らす彼の人の応えに、エルウィンの表情が見る間に輝くのだった。

 嬉し気なエルウィンを目の当たりにしたレオンは思わず目を細める。
 可愛い。
 思考の片隅を過ぎった感情に彼は慌てて首を振る。
 何と不埒な。
 仮にもエルウィンは己たちの総指揮官ではないか。
 その存在に対して抱くには余りにも不謹慎だと自分を嗜めようとすればする程、人は悪循環に陥るものだ。
 実を言えば。
 元々、レオンはエルウィンに対して非常に良い感情を持っていたりする。
 誰よりも強く、凛然とした光輝の王の末裔。
 出来るならば敵ではなく、共に戦う同朋として在れたならば。
 その思いが、先日の戦いで思わず手を差し伸べ共に戦おうと口にしてしまうに至った要因ではあったのだが。
 仲間になってから今度は常に意識してしまっていた。
 だからこそ、他の誰もが気が付かない筈のエルウィンの行動を素早く察知出来たので有る。
 だが。
 よもや、このような感情を抱くなど思いもよらなかった。
 一度意識してしまった以上、感情を抑制するのは難しく。
 その上、当のエルウィンが輝くような笑顔など浮かべて自分を見つめている様を目の当たりにしたレオンは、自分の感情に戸惑いを隠せずにいた。
「レオン?」
 じっと自分を見つめ、絶句しているらしいレオンを今度はエルウィンが訝しむ番だった。
「どうしたんだよ?」
 背伸びして己の顔を覗き込んでくる少年の域を脱したばかりの光輝の王の、蒼い瞳に映る自分を見た瞬間。
「わ…!」
 レオンはエルウィンを抱きしめていた。
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相思相愛の筈なのに、互いにそれを知らないで擦れ違う…。
って感じで描(えが)こうと思っているんですが、所謂ラブコメ路線なのでシリアスにはならないんでは無いかな。

現在停滞中(爆汗)